辺見じゅん さん
読売新聞の週刊KODOMO新聞の『オランダ正月』特集に辺見じゅんさんの文章が掲載されました。
 時代の流れを生んだ人々
 娘のころ、父からの誕生日のプレゼントは決ま って本であった。『おらん だ正月』もそのうちの1冊 である。鎖国時代、長崎は、オランダを通し、西洋文明や文化の玄関口であった。 筆者の森銑三はこの本を子供たちにも読んでもらいた いと、話しことばでわかり やすく書くことにつとめたそうだ。  蘭学者の大槻磐水、『解体新書』を翻訳した杉田玄白、本草学の貝原益軒、樺太探検の間宮林蔵などすご しは知っていた:。 しかし、長久保赤水の名は初めてだった。地理学の大家で、経緯線が入った最初の日本地図を作った赤水は、幼少時に両親を失い、農作業にも本をふところに入れ、夜は線香で読書した ほど、エネルギッシュで克己心がつよかった。 50歳のとき、初めて長崎に行き、オランダ人と出会ったエピソードは、興味深い。
 16歳のときは知らない名前も多く、飛ばして読んだ りしたが、再読して、ふと思った。地底の水脈がポツリポツリとにじみ出て、明治という国家の湧き水となる流れが、彼らのような人々によって生まれたのだ、と。

辺見じゅんさん | ホーム (読売新聞 2006年6月17日) (2006.06.21)