私が行っている美容院では猫ちゃんを飼っています。
ラッキーという名前です。8歳の女の子です。銀色がかったグレーで、手足やお腹は真っ白なのだそうです。テレビの看板猫ちゃんたちを紹介する番組にも出演したことがあるとかで、とても美人さんのようです。
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ああ、でも悲しいかな、私はそのラッキーの声は何度も聞いているのですが、まだ一度も触らせて貰えていません。
ラッキーは首に鈴をつけています。だから私のかなり近くまで来てくれたことがあるのは、私にも分るのです。でも、呼んでも私の手の届くところまで来てくれたことはありません。
他のお客さんにもそうらしいので、特に私が嫌われているというわけでもなさそうです。
ラッキーは気ままにお外に出かけます。帰ってくるときは「にゃーん」と大きな声で外から呼びます。
中に入ってからも、何度か大きな声でにゃーん、にゃーんと鳴いています。
「ただいまぁ!」
「開けてよ」
「開けてくれて有難う」
「面白かったよぉ」・・・ |
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そんなことを言っているように聞こえます。
そしてひとしきり鳴くと、たいていは奥に入って自分の場所で寝ています。
一人で中に入れないラッキーのために、お店の人はラッキーが帰るまで家に帰れません。本当に大事にされているのです。
ラッキーがもっと小さかった時には、美容院の店長はラッキーに食べさせるために、ホタテの乾燥した物を自分の口の中で柔らかくしてからあげていたのだとか。
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そんなラッキーちゃん、最初は捨て猫だったのだとか。未だ生まれたての頃、美容院の花壇のとこに突如現れたのだそうです。 美容院の店長さんがとても優しい猫好きな人で、その噂が界隈の野良猫仲間の間でも広がっていたのでしょう。あそこに行けば何とかしてもらえるよとでも聞いたのかもしれません。 寄る辺ない子猫は必死にたどり着いたのかもしれません。
このお店では今までにも猫ちゃんを何度も飼っているのです。 ラッキーが現れた時にはちょうど欠員で、タイミング的にピッタリだったのでしょう。これがご縁というものなのでしょうね。 |
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おそらく以前に人間に怖いことをされた経験があるのかもしれませんが、それとも、ラッキーこそが猫らしい猫というのかもしれませんが、なかなか心を赦してくれません。
特に子供は怖いらしく、お店に子供が来ると、本当に忍び足で逃げてしまうのだそうです。 「忍び足をしたって姿が見えるんだから全然バレパレなのに、本当にこっそり出て行くのよ」と美容師さんは面白そうに笑って話してくれました。
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私は見えないけれど、ラッキーの鳴き声が聞こえると、いつもとても嬉しくなります。 本当は膝にのつけて、なでなでしたいんですけどね。
いつか、もしかしてラッキーにお許しをもらえる時があるでしょうか? でも、それは、にゃんともしようがありませんね。 とにかく私は美容院に行く度に、ラッキーに会えることが何時も楽しみなのです。
(語り部、朗読家)
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